高校1・2年生は、どんな対策をいつから始めればよいのか?
共通テスト 国語、変更点と対策法
2025年1月に実施される共通テストから、国語の試験が大幅に変更されます。これにより、高校での国語の勉強法も少なからず影響受けることとなります。
今回の変更のポイントやその狙い、必要となる対策や準備など、大学受験に失敗しない高校国語の勉強法をプロに聞きました。
この記事のポイント
2025年度 大学入学共通テストの変更点と狙い
2025年の共通テストの試験概要変更は、2022年の学習指導要領改定を受けたもので、新指導要領に基づいた授業を受けた高校生が大学を受験する年、2025年の共通テストから大幅に変更されることとなっています。まずは、国語の共通テストの変更点や狙いをまとめておきます。
大問を新設、全体で大問4つから5つの構成に、時間も10分延長
- 現行の共通テストは、大問4題構成(近代以降の文章2題<論理的な文章・文学的な文章>、古文1題、漢文1題)だったが、そこにレポート作成や対話・発表等の実用的な文章を扱う大問が1題追加。
- 試験時間も現行の80分から90分へと増加。
以下に、変更点を踏まえた国語共通テストの理想的な時間配分を表で比較しておきます。参考にしてください。
問題 番号 |
出題 | 配点 | 理想的な 時間配分 |
---|---|---|---|
第1問 | 論理的な文章 (評論) |
50 | 23分 |
第2問 | 文学的な文章 (小説) |
50 | 20分 |
第3問 | 古文 | 50 | 20分 |
第4問 | 漢文 | 50 | 12分 |
5分で 見直し |
問題 番号 |
出題 | 配点 | 理想的な 時間配分 |
---|---|---|---|
第1問 | 論理的な文章 (評論) |
45 | 23分 |
第2問 | 文学的な文章 (小説) |
45 | 20分 |
第3問 | 実用的な文章 (図やグラフ) |
20 | 10分 |
第4問 | 古文 | 45 | 20分 |
第5問 | 漢文 | 45 | 12分 |
5分で 見直し |
新設される第3問は、ボリュームが多めの小問2つ
- 公表されている試作問題第A問、第B問に基づけば、文章や図、グラフなどからなる実用的な文章(※TOPIC参照)に関する問題。ボリュームはやや多め。
- いずれも文章や資料の読解に深い思考力を要するものではなく、レベルは総じて標準的。しかし、解答時間の制約上、相応の処理スピードが求められる。
【第A問】資料点数が多く煩雑な照合作業を要するが、比較的容易に正答を導ける問題も多い。
【第B問】複数の図表や文章を横断して読み解く力や、具体例を通して本文を正しく解釈する力などが求められる。
[参照] 大学入試センター施策問題
《TOPIC! 実用的な文章とは?》
社会生活に必要とされる、具体的な目的やねらいを達するために書かれた文章。
- 報道や広報の文章、案内、紹介、連絡、依頼などの文章や手紙
- 会議や裁判などの記録、報告書
- 説明書、企画書、提案書
- 法令文
- キャッチフレーズ、宣伝の文章
- インターネット上のさまざまな文章やビジネスでの電子メール など
狙いは実用的な文章を読み解く「読解力」を測ること
今回の変更は、従来に比べると「大幅な変更」と言ってよいものでしょう。これは、教育指導要領自体が、社会生活に即した実用的な文章を読み解く力や、対話や発表などの言語活動能力をより重視しているからです。
それを受けて試験の内容も、評論文や小説を題材とした問題ではなく、統計資料や図表を横断的に読んで正答を判断したり、発表やレポートのまとめ方の判断を問われたりと、これまでにはない出題形式になっています。
全体的にみれば、「より論理的」な読解力や対話力・会話力に比重が置かれた試験となっています。これは、「国語には公式がなくて答えを導き出しにくいので苦手」という生徒にとっては、これまでとは違った角度から「国語を学ぶ意欲」を刺激してくれる変更とも言えるでしょう。
そもそも、「読解力」とはどんな力なのか?
今回の共通テストの変更を意識した国語の勉強法に入るその前に…。
国語の勉強の仕方を考える際によく話題になる「読解力とは何か?」を、もう一度考え直してみます。
読解力の本質にたどり着くための「とある教育実験」
次に示すのは、ある教育実験の結果です。
問1)次の1・2の文は同内容を表したものか、それともそれぞれ異なる内容を表したものか。
1.幕府は、一六三九年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸警備を命じた。
2.一六三九年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸警備を命じられた。
※問1の原文:「新しい社会 歴史」(東京書籍)から引用
中学2年の正答率 57%
高校生の正答率 71%
さすがは高校生!と言いたいところですが、続いて、この問題も解いてもらいました。
問2)次の1・2の文は同内容を表したものか、それともそれぞれ異なる内容を表したものか。
1.Aは、B年、C人をDし、Eには、FをGした。
2.B年、C人はDされ、Aは、EからFをGされた。
高校生の正答率 中学生並み(60%程度)に下がった
この問題文では、具体的な名詞や動詞をA・B・C・D…に置き換えていますが、前の問題との違いはそれだけです。しかし、正答率は10%も落ちてしまったのです。 なぜでしょうか?そもそもこの二つ問題は、何が違っているのでしょうか?
文章構造がわかったとしても、正しく文章を読み解けるとは限らない
問2の問題文は、文章の構造だけを示しています。しかし、それ以外の情報は一切含まれていません。一方の問1の問題文には「ポルトガル人」「幕府」「大名」「沿岸警備」といった具体的な情報が示されています。
ここで「読解力」について考えてみましょう。一般的に「読解力」とは、
- 主語・述語の関係や、指示代名詞が何を指すのかなどを正しく追うこと
- 段落や段落の関係(順接・逆接)などをきちんと判断すること
といった「文章の構造」に着目し、それが正しく把握・理解・予測できるようになれば、文章全体で何を伝えようとしているのかにたどり着けるようになる力とも言われています。
しかしこの実験結果からは、必ずしもそれが正しいとは言えません。「文章の構造」だけを見せられた問2の問題文では、正答率は下がっているからです。その20%分の正答は何によって担保されていたのか?といえば、それが「情報=知識」です。
問1の問題文の「幕府は大名から沿岸警備を命じられた。」の一文を読んだ瞬間に、普通に日本史を習っている高校生なら「幕府が大名から命じられるはずがない」と気づくのです。幕府と大名の力関係はどちらが上かぐらいの知識は持っているはずですから。そこには、主語・述語の関係を紐解く必要以上に大切なポイントがあったのです。
体験や学習などを通じて獲得した「既有知識」も活用しながら読み解く
もう一つの事例を示します。
2010年のセンター試験の国語では、小説の問題に吹奏楽をテーマとした「楽隊のうさぎ」(中沢けい)が出題されました。この問題の正答率に関して、独自に調査をしたところ、ある傾向がはっきりと表れたのです。
部活などで、吹奏楽の経験を持っている生徒の方がより正答率が高かったのです。
吹奏楽を経験したことがない生徒には、文章に書かれてある楽器名すらピンとこない。その扱い方や指の動きなどおよそイメージがつかない。すべてが前述の問2のA・B・C・D…に置き換えられている状態と同じで、いちいち突っかかります。
一方、吹奏楽を経験したことがある生徒なら、文章の大半をすんなりと読むことができ、自分の中にしっかり映像も浮かび上がります。ですから、たとえば心情理解を問う問題でも、「明らかに間違っている回答」をみつけだすのにもさほど時間はかからないのです。
文章を読み解くために必要な「二つの力」
これらから考えると、文章を読み解くには「二つの力」が必要だということがわかります。
その一つは「文章構造を理解する力」で、もう一つが「既有知識」です。仮にそれぞれを「ボトムアップ処理」「トップダウン処理」と呼びましょう。
とりわけ重要になるのは、「既有知識=トップダウン処理」です。文章を読み進める際には、その文章に関連する知識の多寡が、理解の速さや正確さに影響します。文章を読み解くには、これまでの人生で体験したことや学習したこと、それらを通じて獲得している知識が、無意識のうちに大きく作用しているのです。
文章に書かれている内容を、いちいちその文章構造を確認するまでもなくすぐにイメージでき、共感できる。それが具体的かつ実感を伴うものであればあるほど、試験でよく出題される「正誤問題(問題文を読んで、以下の選択肢の内容が正しいかどうかを判断しなさい)」などは、短時間で判断できるようになります。
この二つの力から生まれるのが「合理的な推論能力」と呼ばれるもので、これこそが「読解力の真の姿」ではないかと考えます。
新設される実用的な文章の問題(第3問)の対策法
それではいよいよ変更される共通テストの対策について考えていきます。
問われているのは、「合理的な推論能力」
新設された第3問で問われるのは「合理的な推論能力」で、ポイントは「結論に至るまでのプロセスが合理的であること」です。
いくつか選択肢の中から効率よく正答にたどり着くためには、
- 間違っている情報を見つけて選択肢からはずす
- 与えられた情報をもとに考えられる結論を予測し組み立てる
- その処理をできるだけ高速で行う
ことが必要です。
前提として、文章構造はきちんと理解でき、文章を読み解くための知識も多いほうが有利になることは言うまでもありません。そして②に関しては、さらに別の力が求められます。それは「いかに論理的に結論を導き出せるか?」という力です。
論理的に結論を導き出す思考法を鍛える
論理的に結論を導き出すためのおもな思考法として挙げられるのが、帰納法(きのうほう)と演繹法(えんえきほう)です。
複数の事実の共通点をまとめ、そこからわかる傾向や規則性をもとに、結論(一般論)を導き出す
例)
日本は景気が悪い/中国は景気が悪い/イギリスは景気が悪い
(複数の事実の共通点<景気が悪い>をまとめる)
世界的に見て景気が悪い国が多い(一般論に落とし込む)
法則や一般論や法則に「こと」をはめてみる→結論を導く
例)
青魚にはDHAが多く含まれる(一般論)
イワシは青魚である(ことをはめてみる)
イワシにはDHAが多く含まれる(結論を導く)
新設される第3問の試作問題をみると、複数の文章、資料・図表・グラフ、生徒作成のレポートなどの多様な素材を横断的に見比べながら、資料に中に記される事実に基づいて推論を立て、正答を選ばせる問題となっています。
これは、帰納法的な思考プロセスです。文章や資料を集めて、間違っている情報ははじき出し、残ったものの中から共通する傾向などを見出し、それを結論としていくのです。
さまざまなテーマや統計資料に触れ、読み慣れる
何しろ、素材がこれまでの共通テストでは見たことがない「実用的な文章」で、横書きだったり、複数資料を同時に見比べねばならなかったりしますから、出題形式の目新しさには戸惑いも覚えます。
しかし、実はこれまでの共通テストでも、文章の展開を予測・把握する問題や、文章の趣旨を読み取る問題など、帰納法的な思考プロセスを用いて正答に辿り着かせる問題は比較的多く出題されています。
問題の形態に惑わされることなく、まずはこれまで通り、文章読解の基礎となる「文章構造の理解(ボトムアップ処理)」を鍛え、「既有知識(トップダウン処理)」を増やしていくことが大切です。どのような素材が出題されても対応できるよう、さまざまなテーマや統計資料に触れ、読み慣れておきましょう。
評論(第1問)や小説(第2問)の変化は?
評論や小説も新しい教育指導要領を意識している
ここであらためて注意を促したい点は、新設される第3問は、配点面・時間配分だけからみれば、決して大きな比重は占めていないことです。配点は20点、試験時間配分は10分、長くかけても15分程度で処理すべき問題です。現代文で言えば、これまで通りに評論や小説のウエイトが大きなことに違いはありません。
しかし、ここでさらに注意すべきは、この評論や小説においても、新しい教育指導要領に従って、第3問のような思考の仕方を求められる問題が増えることが予想されることです。もちろん、昨年までと同様の出題も残ると思われますが、第3問の比重は小さいからといって、それは第3問に限った話ではなく、評論や小説にも影響していることを忘れないでください。
古文(第4問)・漢文(第5問)の変化は?
確実に得点できる「点の稼ぎどころ」
古文・漢文の対策は、これまでと同じと考えてよいでしょう。
配点も各5点ずつ減っただけ。活用などの文法を中心に、記憶すべきを記憶してさえおけば、確実に得点できる「点の稼ぎどころ」です。しかも、比較的現代文(第1問・第2問・第3問)を重視する傾向が見られますので、難易度が平易になることはあっても、難しくなることは考えにくい環境です。
実際の試験で問題を解く順番も、この古文・漢文から回答し、時間をしっかり残したうえで現代文に取りかかるようにした方が得策です。
大学受験に向けて、いつから何を準備すればよい?
高校1年生
まずは、古文と漢文を徹底的にマスター!
先述の通り、共通テストを受験する人にとっては、古文・漢文は得点源となる科目です。基本的には活用形など記憶が中心となるため、努力した分だけ必ず得点力は上がります。1年生では、徹底的に覚える努力をしてください。
同時並行で語句や知識を蓄積して既有知識に
現代文に関しては、新設される第3問以外の問題でも、合理的な推論能力など新しい教育指導要領を意識した出題が予想されます。そのためには、文章に書かれている内容について一定レベル以上の知識は必要になります。政治、経済、文化、あるいはさまざまな社会課題など、世の中的に関心の高いテーマやその議論のポイントなどを知る(トップダウン処理できる)努力を重ねてください。こうした知識を蓄積するためにも、学校で配布される副読本などは繰り返し読んで、既知化・教養化することを心がけてください。
<定番とされるおすすめの副読本>
- 現代文キーワード読解(Z会)
- 現代を読む はじめての評論文20選(明治書院)
高校2年生
古文・漢文は演習問題で力を維持
2年生になれば、古文・漢文は演習問題を中心として、記憶の定着と実戦力を高めていきます。特に理系の場合は、3年生になると理数系科目の仕上げに時間を割かねばなりません。2年の夏休み、遅くとも冬休みのうちには仕上げておけるようにしましょう。問題量は、古文60題、漢文40題程度でよいでしょう。
論理的に思考するトレーニングを
論理的に思考すると言われてもピンとこないかもしれませんが、「文章の構造」をきちんと理解・把握しながら、実戦的な問題にあたることです。接続詞や指示代名詞などの言い換え、あるいは文章と文章のつながりや関係を意識しながら読むなどの作業を反復することによって、文の構造を意識せずとも「この文脈ならこの先の文章はこういう展開・結論につながる」と先読みできるようになることが理想です。
例題
( )内に入る適切な接続表現を一つ選べ。
「本物」と「偽物」を区別する基準は、絶対的ではなく相対的なものということである。(つまり/したがって/そして)それは多分に当人の価値観や解釈によるという意味において主観的なものだ。ただし、その事実を当の本人も気付いていないことが多いので、人は「客観的に言って」といった枕詞によって、平気で目の前の対象を断罪してやまない。
(解答)そして
学校の副読本として配られる問題集でもいいですし、市販の参考書でも構いません。自分のレベルにあった問題集を繰り返して解いてみてください。
2年生も後半になれば、次第に模試の回数も増えてきます。模試をペースメーカーとして活用しながら、実戦的な問題に対する対応力を磨いてください。
国語は英語や数学と同じ200点の教科、同様に勉強する覚悟が必要!
ここまで、受験国語の対策を述べてきましたが、最後に、これだけはどうしてもお伝えしておきたいことがあります。
「国語は苦手」という人は、実は「苦手」なのではありません。
得点できるレベルまでの勉強をしていないだけです。
客観的に自分を振り返ってみてください。英語や数学の勉強同様に、国語の勉強時間を確保していますか?ほとんどの人が「No」で、多くても3分の1程度の時間、ともすれば10分の1程度かもしれません。
ところが、共通テストの配点を見てもわかる通り、国語は英語や数学と同様に200点の重さを持つ重要教科です。英語や数学には勉強時間を作れても、国語には時間を作りづらいのはなぜでしょう?
それは「生まれてこのかた、日本語を話せるだけは話すことができ、日常生活だけならさほど苦労しない」から。つまり勉強せねばならない必然性が低いからです。
一方で、受験で試されているのは「日常生活に困らないに会話力」ではありません。論理的な推論能力(読解力)や、高度に思索するための語彙力や知識量、さらにはそれらを駆使して第三者に伝えるための表現力や対話・会話力などなのです。これはやはりきちんと訓練されていなければ身につきません。
裏返していえば、日本語が話せる人なら、トレーニングさえすればそうした力も必ず強化されます。しかもそれは、一度身につけば社会に出て仕事をするうえでも必ず役立つ一生ものの財産になるのです。
まずは、英語や数学と同様・同量に勉強する覚悟が持つことから始めましょう。
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この記事を書いた人
能開センター 大学受験コース
オンラインゼミ 国語スーパー講師
森野 知生(もりの ともき)